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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8514号 判決 1969年3月31日

原告

徳村ロク

被告

有限会社韮崎本町運送

主文

被告は原告に対し金一〇〇万円およびこれに対する昭和四一年九月一五日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の、その余を被告の、各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告は原告に対し金二九三万七二七五円およびこれに対する昭和四一年九月一五日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

訴外徳村邦雄(以下訴外邦雄と略称)は、次の交通事故によつて死亡した。

なお、この際同人は訴外矢島製作所の所有に属する原告車を損壊された。

(一)  発生時 昭和四〇年一〇月五日午前〇時五分頃

(二)  発生地 東京都豊島区巣鴨三丁目二八番地先路上(国道一七号線)

(三)  被告車 大型貨物自動車(山梨一を八五一七号)

運転者 訴外向山和博(以下訴外向山と略称)

(四)  原告車 普通乗用自動車(足立五ぬ七〇九九号)

運転者 訴外邦雄

被害者 訴外邦雄

(五)  態様 道路横断中の被告車と直進中の原告車との衝突

(六)  被害者訴外邦雄は即死した。

二、(責任原因)

被告は、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(一)  被告は、被告車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、人損につき自賠法三条による責任。

(二)  被告は、訴外向山を使用し、同人が被告の業務を執行中、次のような過失によつて本件事故を発生させたものであるから、物損につき、民法七一五条一項による責任。すなわち、訴外向山は、豊島青果市場からその前面の国道に前進する際、助手の誘導等により左右の安全を確認したうえで進行すべき義務があるにも拘わらず、その注意を怠つた過失がある。

三、(損害)

(一)  葬儀費

原告は、訴外邦雄の事故死に伴い、葬儀費二〇万五一三五円の出捐を余儀なくされた。

(二)  被害者に生じた損害

(1) 訴外邦雄が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおり四八一万九六二八円と算定される。

(死亡時) 一九歳

(稼働可能年数) 四四年

(収益) 訴外邦雄は事故当時、兄徳村孝雄の経営する有限会社徳村製作所に勤務し、月収二万五〇〇〇円の外に年二回の賞与があるので、年収三五万円である。

(控除すべき生活費) 月額 一万一二六四円

(毎年の純利益) 二一万四八三二円

(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。

(2) 車両損害

訴外邦雄は、矢島製作所より原告車を借りて運転していたところ、本件事故で原告車は大破され、矢島製作所に対し八四万九七八八円で新車を購入して弁償すべきである。よつて、同額の損害を蒙つた。

(3) 原告は訴外邦雄の唯一の相続人である。よつて、原告は、親として、右訴外人の賠償請求権を相続した。その額は、五六六万九四一六円である。

(三)  原告の慰藉料

訴外邦雄は原告の次男で、真面目な青年であつたが、本件事故により無残な死を遂げた。

原告の精神的損害を慰藉するためには、二〇〇万円が相当である。

(四)  過失相殺

以上(一)ないし(三)の合計は七八七万五五五一円であるが、訴外邦雄に五割程度の過失があるので、二分の一に過失相殺すると、原告の損害額は三九三万七二七五円となる。

(五)  損害の填補

原告は強制保険から既に一〇〇万円の支払いを受けた。

四、(結論)

よつて、被告に対し、原告は二九三万七二七五円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四一年九月一五日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項は認める。

第二項中、(一)被告会社が運行供用者であることは認め、(二)被告会社が訴外向山を使用し、同人が被告の業務中の事故であることは認め、同人の過失は否認する。

第三項(一)ないし(四)は争う。

二、(事故態様に関する主張)

訴外向山は、被告車を運転して豊島青果市場出入口停止線で一時停止し、国道一七号線を右折すべく左右の安全を確認したところ、右方約一〇〇米の地点に一台のタクシーが見え、右方二〇〇米の地点の信号機の信号が赤に変つたので、十分右折できるものと予想して、道路中央に出たところ、原告車は右タクシーの後方よりその右側を時速一〇〇粁以上の猛スピードで追い抜き、突進して被告車の右側に衝突したもので、訴外邦雄は急制動をかけたらしく一五・二米のスリップ痕があり、同人は飲酒して酩酊運転をしていたものと思われる。

三、(抗弁)

(一)  免責

右のとおりであつて、訴外向山には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに被害者訴外邦雄の過失によるものである。また、被告には運行供用者としての過失はなかつたし、被告車には構造の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告は自賠法三条但書により免責される。

(二)  過失相殺

かりに然らずとするも事故発生については被害者訴外邦雄の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

第五、抗弁事実に対する原告の認否

訴外向山が無過失であつたことは否認し、被告車に構造上の欠陥も機能の障害もなかつたとの点は争い、訴外邦雄に過失のあつたことは認めるがその割合は五割程度である。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項は、当事者間に争がない。

二、(責任原因)

(一)  被告が本件事故当時被告車の運行供用者であつたことは当事者間に争がない。

(二)  被告が訴外向山を使用し、同人が被告の業務を執行中、本件事故が発生したことも当事者間に争がない。

そこで訴外向山の過失について判断する。

〔証拠略〕によれば、本件事故現場は、豊島青果市場正門前で、道路状況は、全幅員約二三・一米の歩車道の区別のある道路で、車道幅員が一五・五米、両側の歩道は約三・八米であり、直線かつ平坦で車道はアスファルトで舗装され、中央約五・九米の部分は花崗岩の都電軌条敷となつており、事故当時の道路は乾燥しており、見透は極めて良好であり、交通量は深夜も割合に多く、最高速度は時速四〇粁に規制され、終日駐車禁止の指定場所となつていることが認められ、〔証拠略〕によれば、訴外向山は被告車を運転して豊島青果市場から国道一七号に進入するに際し、左右の安全を確認するため一旦停止し、右方約七〇米の地点に原告車を発見したが、その前方を一台のタクシーが進行して来るのを現認し、右タクシーの速度と位置に鑑み、その到着前に横断できるものと速断し、原告車の動静について格別注視することなく発進したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。したがつて、訴外向山には原告車の動静を注視して安全を確認すべき注意義務を怠つた過失が認められる。

(三)  右のように、被告車の運転者たる訴外向山に過失のあつたことが認めらるれので、その余の点について判断するまでもなく、免責の抗弁は理由がない。

したがつて、被告は、人的損害については自賠法三条に基き、物的損害については民法七一五条一項に基き、損害賠償義務がある。

三、(過失割合)

ところで、前掲各証拠によれば訴外邦雄は、時速約七八粁で板橋方面から巣鴨方面に向つて進行し、前記タクシーを追い抜き、衝突地点より約三三米板橋寄りの地点において急制動の措置をとつたが間に合わず、被告車の右側面に激突したことが認められ、〔証拠略〕によれば、訴外邦雄は事故当時酒気帯び運転をしていたことが認められる。したがつて、訴外邦雄には、酒気帯び運転を行ない、制限速度を約三八粁も超過し、前方を充分に注視しなかつたことが認められる。

右邦雄の過失と訴外向山の前記過失の割合は、三対一を以て相当と認める。

四、(損害)

(一)  葬儀料

〔証拠略〕によれば、原告は訴外邦雄の死亡に伴い、葬儀費として約二一万円の出捐を余儀なくされたことが認められるが、被告に賠償をさせるべき金額は、そのうち二〇万円が相当である。

(二)  訴外邦雄の逸失利益の相続

(1)  〔証拠略〕によれば、訴外邦雄は死亡当時一九歳であつたことが認められ、〔証拠略〕によれば、訴外邦雄は事故当時、兄孝雄の経営する有限会社徳村製作所に勤務し、月収二万五〇〇〇円の外に年二回の賞与があり、年収は三五万円であつたことが認められ、訴外邦雄の稼働可能年数は事業形態等に鑑み六〇歳までの四一年間で右期間を通じて生活費は五割を以て相当と認められるので、年間の純収入は一七万五〇〇〇円で四一年間の純収入を年毎に年五分の割合の中間利息をホフマン計算法により控除すると、訴外邦雄の得べかりし利益の現価は、三八四万四八三五円である。

(2)  次に、〔証拠略〕によれば、訴外邦雄は訴外矢島製作所より原告車を借用して運転中、本件事故を惹起し、原告車が大破したため、矢島製作所に対しその損害を弁償すべき義務があり、その額は、新車購入費八四万九七八八円からスクラップとしての価値二万円を控除した八二万九七八八円であり、同額の損害を蒙つた。

(3)  そして、〔証拠略〕によれば、原告は訴外邦雄の母であつて、唯一の相続人であることが認められる。したがつて原告が相続によつて取得した訴外邦雄の損害賠償額は、(1)(2)の合計四六七万四六二三円である。

(三)  過失相殺

原告の財産上の損害は、右(一)(二)の合計四八七万四六二三円であるが、訴外邦雄の前記過失を斟酌すると、被告に賠償させるべき金額は、一二五万円を以て相当と認める。

(四)  慰藉料

本件事故の態様、殊に訴外邦雄の過失その他前記諸般の事情を総合すれば、原告の慰藉料としては、七五万円を相当と認める。

(五)  損害の填補

原告は、財産上の損害および慰藉料の合計は二〇〇万円であるが、強制保険より一〇〇万円の支払のなされたことは原告の自陳するところであるからこれを控除すると、被告が賠償すべき金額は一〇〇万円となる。

五、(結論)

よつて、原告の本訴請求は、主文第一項の限度で理由があるのでこれを認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用した。

(裁判官 篠田省二)

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